ア イ デ ン テ ィ テ ィ 

 

 先に裏切ったのは、どちらだったか。
 俺か、あいつか。

 輪廻の枷を受ける前に、俺は既に、裏切り者だった。
 俺は、お前等のゲームの駒じゃねえ。

 我等が滅びの大願の為に。
 無の秩序の(かいな)へと還る為に。

 知ったことか、そんなもの。俺はあの時、確かにそう思った。
 そういう台詞は、冥王か覇王に言え、と。
 俺がそう思ったのも、奴の計算の内だったのだろうか?
 死の瞬間の、俺の怒りを。憎悪を。そして――痛みを。自らの糧と、力とするために。そのために俺は創られたのだろうか?それ故に、俺はあの時、奴を憎んだのか?そのように創られたのか?俺は、はじめから駒でしかなかったというのか。
 
 下らねえ。何もかも。
 
 そして俺は裏切った。
 自分が自分であるために。人間だった長い間、ずっとそう生きてきたように。
 俺自身が生きるために――目の前にいる、こいつを殺す。てめえのために、俺はこいつを犠牲にする。
 解っている。俺がやろうとしている事は、あの時あいつが俺にしたことと同じだ。
 てめえ勝手に自分の傷を、周りに撒き散らしているだけだ。

 リナとか言うちっぽけな筈の人間が持つ、俺をまっすぐに睨みつける瞳。
 絶対的な力の差を前にしてさえ失われることの無い――いや、その差があるからこそより強くなる、剥き出しの生への渇望。その――光。
 その光は、俺の瞳の中にも在るのだろうか?「人」にさえなること叶わぬこの身に。
 疲れきるというには永過ぎる時を覚悟しながら、それでも今を求めずにはいられぬ俺。短さを知っているからこそ、今を求めるお前。かつて俺がそうであったように。不本意な他者の欲望に、必死に抗う人間。今俺がそうであるように。
 お前も、俺たちは似ていると言ってくれるか?

 それでも俺は、お前を殺す。俺の為に。俺と似たお前を。
 そして最後まで、何が起ころうと生き抜いてやるさ。俺が生きるために殺すのだから。
 傲慢すぎる論理だ。カケラも正しくなんかねえ。それは、俺が一番良く知っている。

 俺が進もうとしている道には、何も無いのかもしれない。
 それでも、俺は。
 全てを灰燼と化しても。
 その中に、ただ一人佇むこととなっても。

 俺が、俺として在る為に。

■ f i n ■

 

ユガンダセカイ……繰り言