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「降谷〜、ちょーっとこっち来てみな」
御幸がそう言って手招きすると、あのむすっとした可愛げがないのになぜか妙に可愛げのある表情でやって来た。
「何ですか?」
俺、ゲームするのに忙しいのに…なんて小憎らしいことをぼそっと言う。
嘘ばっかり。
本当は一人でどうすればいいのか手持ち無沙汰で、みんながやり終えたDSをたいして興味なさげにしていただけ
のくせに、だ。
「降谷、お前手ぇ見せてみ?」
「え…」
「ばーか、手の平じゃねえよ、こっち」
そう言って俺は降谷の手首を掴んで、くるりと反転させた。
「あーあ、やっぱりな〜」
野球をやっている手、しかもあんな剛速球を投げるピッチャーにしては細い降谷の手を見ながら俺は、これみよがし
にため息をついてやった。
「お前、あれだけ言ったのに塗ってないだろ、マニキュア」
途端、「う…」という顔になる。
「さては忘れてただろ?」
ずばり指摘してやると、ぷいっとそっぽを向きやがった。
エースとしてのプライドはあるのに、こいつはこういうところでまだまだ自覚が足りない。
ま、だからこそこうやって俺が面倒を見てやってるんだけど。
そしてこれがなかなか楽しいところではあるのだけれど。
「降谷〜、そっぽ向いてもバレてんだからな〜。ってことで、はい」
「何ですか、それ?」
広げた足の間を指差す俺に、降谷が訝しげに首をかしげる。
「俺が塗ってやるからここに来いってこと」
言いながら机の引き出しに入れてあるマニキュアの瓶を取り出す。
いらないいらないと、ふるふると首を横に振る降谷の意見はこの際無視だ。
「先輩命令だぞ、降谷。でもってもし断ったりしたら……」
「したら?」
「明日っからの投球練習、付き合うのやめよっかな〜」
「え?」
「だってさ〜、自分の体を大事にしないピッチャーの球受けるなんて、俺やだもんね」
俺の爆弾発言に降谷があせった顔つきになった。
「どうすんの?」
さらに追い討ちをかける俺に観念したのか、おずおずと降谷が俺の足の間に座り込む。
後ろから俺に抱え込まれるような体勢に、ほんのりと耳を赤らめて照れているのがわかった。
そんな降谷の手を取り、丁寧にマニキュアを塗っていく。
「……あの、なんで先輩も持ってるんですか?これ」
しばらくして沈黙に耐えられなくなってきたのか、どうして俺がマニキュアを持っているのかと降谷が聞いてきた。
「知りたい?それは、俺の大切なエースのことをいっつも考えてるからだよ」
絶対に恥ずかしがるんだろうなぁと思いながら答えたら、ほんとに真っ赤になるから可愛い。
だからついつい悪乗りしてしまって、無防備に晒しているうなじにちゅっとキスをしてやった。
「ちょ…っ」
突然のことに固まり、その後何をするんだと振り上げてきた降谷の手を、すかさず俺はキャッチする。
「おいおい、まだマニキュア固まってないんだから」
「もういいですっ」
「よくない。ちゃんと塗らないと」
「だったらヘンなことしないでくださいよ!」
「ヘンなことって?」
わかっていながら俺は真面目な顔で聞き返してやる。
「だからその…」
「何?」
「………もういいです」
言い返せず、降谷はむーっとした表情で黙り込む。
俺に言い合いで勝とうなんて百年早い。
なんて思っていたら、ふいに降谷が体の力を抜いて俺にもたれかかってきた。
「降谷?」
「この方が楽なんで。早くちゃんと塗ってくださいね」
仕方ないので先輩のことは椅子の背もたれだとでも思っておきます、と言わんばかり態度だ。
その降谷の突然の豹変っぷりに、俺は笑いが止まらない。
だって、こんなにえらそうな態度なくせに、相変わらず降谷の顔は真っ赤に照れたままなのだ。
ああもう、まじでこいつ可愛いわ。
ほんとこんなに楽しくて、こんなに可愛い奴なんて他にいない。
そんなことを思いながら、次は色のついたマニキュアでも用意しておいてやろうなんて悪巧みを俺はまたしても考え
ていた。 |