主人在宅ストレス症候群

ある心療内科の先生が、いろいろな症状を「主人在宅ストレス症候群」として、総括しているという話を新聞で読んだ。その記事によると「定年退職した夫がずっと家にいるようになってから、体調が悪くなった」と話す女性が目立つのだという。患者に共通しているのは、「夫は何もしないでテレビばかり見ている」「三度の食事の用意が大変」「あれこれと指図される」「細かく干渉される」など、日常生活で強い束縛感を感じていることだそうだ(2000年6月6日、神戸新聞)。

患者の症状は、ストレスの影響が強い高血圧や胃かいよう、十二指腸かいようをはじめとして、さまざまらしく、亭主関白型の夫と自分を押さえて夫に従う妻という関係から、高圧的な夫に気持ちを伝えられず、その結果生ずる精神的なストレスが原因だという。

実は私にも思いあたることがある。私は退職してからもう13年になるが、退職してしばらく家内の機嫌が悪かった時期があった。そのときの家内の言い分は、「毎日家にいられるとうっとうしい」「三度の食事づくりが面倒」などで、「私の定年はどうなるの」と言われたのには参った記憶がある。

私のばあい、「毎日家にいられるとうっとうしい」「三度の食事づくりが面倒」については、退職して勤めに出ないのだから家にいるのは当然だし、存在そのものが否定されるなら生きていられないではないかと反論してみたが、「私の定年」には言う言葉がなかった。しかしよく考えてみると、それも当然のことで、掃除、洗濯、食事と際限なく続く家事は、夫が働いている間はしかたないとしても、働かなくなったときにはお互いに分担すべきという家内の主張にはうなづかざるを得なかった。

そこで一念発起して料理教室にも通って、一応の基礎は身につけた。まだ食事作りには至っていないが、いざとなれば何とかできると思っている。家事に関する家内の立場も理解しているつもりだ。だから食事づくりの負担を軽くするために、出来上がった物を買ってきてすませることもあるし、買い物のさいは荷物持ちに同行するほか、掃除やゴミ捨てなど協力できることはすることにしている。

そういう家事とは別に、一日べったり家にいるとうっとうしいという発言にも配慮しなければならない。現実問題として、夫の在宅で奥さんが精神的不安定に陥り、病気で苦しむことになれば困るのは夫でもある。そうは言っても毎日出かけるわけにも行かない。私のばあいは、さいわいパソコンを始めてから書斎にこもることが多いので、家にいても顔を合わせるのは食事どき、あるいはお茶を飲むときくらい、家内もボランティアを始めてしょっちゅう出かけるから、私が留守番をしていることも多い。私も出来るだけ、ひとりで出かけるし、お互いにそういうやり方で今のところまず平穏に暮らしている。

でも最初に書いたようにわが家でも問題はあったわけで、おそらく夫が退職を迎えた多くの家庭では同じ問題が起こっているに違いない。その解決には、まず夫の理解不足解消が最大のポイントだと思われる。世の男性方よ、退職の時期が来たら、妻の立場をよく理解しなければならない。偉そうなことを言っていても、当時私もそこまでは考えが及ばなかった。

奥様方も夫の理解のなさを嘆いてばかりいないで、趣味の会や友だちとの交際など積極的に出かけることを考えるべきだと思う。まずよく話し合うこと、そして、ときには言葉やさしく懐柔することも必要かもしれない。自分の権利だけを主張するのではなくて、留守番をさせる夫への感謝も忘れてはなるまい。お昼の食事は用意して、冷蔵庫に入れておき、チンすれば食べられるようにしておくなどの工夫も必要だろう。

常に一緒にいて、夫に尽くすのがよい妻の条件とは限らない。一見冷たいように見えても、外出し外の世界にふれて、リフレッシュし、適当なストレス発散の機会をもつことが大切だと思う。それが夫婦間の安定に役立つのだから。お互いに自分の趣味を持ち、そして、たまには一緒に旅行に出かけるとか食事に行くとか、二人で楽しむことも考えて、仲良く過ごすというのが望ましい姿ではないだろうか。何と言っても、幾とせ世の荒波を乗り越えてきた二人なのだから。

2000年6月