医師

1.卒業後のだいたいの流れ

 卒業の直前に国家試験を受け、4月に合格発表。6月から研修医ということになります。平成16年度から研修が必修化されます。詳細はまだ決まっていませんが(さすがに厚生労働省が決めることは遅いので、詳細まで決まるのは2003年末位になるのでは。)、2年間研修指定病院で研修を受けなくては保険医として働けないことになります。この間の給与は保証する必要があるということで、月収28万辺りが予定されていましたが、減額の可能性が大です。あまり期待しない方がよいでしょう。どれぐらい働くかは科にもよりますが、月〜金は朝7時から夜12時までが標準でしょうか、土日は検査がないので重症の患者がいなければ、多少短いです。時給で計算すれば、500円とかそれ以下ですかね。労働時間超過ではないかということになりますが、事務手続き上は月〜金9時5時で働いていることになっています。そんなわけないだろと誰もが思っています。

 研修が終わると、大学の関連病院で働くことになります。この間は非常勤採用がほとんどです。給与水準はバラバラですが、一般的に経営母体が大きいほど給与は安い傾向にあります。つまり、国立が最も安く、私立が最も高いということです。これは不思議に思うかもしれませんね。当直や健診などのアルバイトをすることで給料が少ないのを補いますが、当然土日などを使って行くことになるので、自分の自由になる時間を犠牲にすることになります。また、忙しい科では行けないということもあります。アルバイトは待遇は良く、健診では午前中で2万円とか、当直では一泊5万円とかです。これを聞くと、普段働かずアルバイトだけで生活した方が給料は多いのではと感じるでしょう。その通りです。そういう人がいてもおかしくありません。主婦をやりながらアルバイトをするという人もいますし、精神科の友人は病棟で仕事がほとんどないといって毎日アルバイトにいっています。

 一般的に4年(外科では6年)ほど臨床をすると、大学病院に戻ります。これも科、大学によりますが、大学院に行く人も多いです。ただ、ここでもう一つ問題が起こります。病院での業務を強制的にさせられるので、半年〜1年ぐらいは病院で働きます。ここでも、事務手続き上は大学院生なので、給料をもらうどころか、授業料を払わなくてはいけません。なぜこういうことになっているのか不思議です。科によっては、大学院にいる間、週1回〜2回はずっとそれが続く場合もあります。ちなみに大学院は4年間です。ただ、年齢を考えると、大学院に行く頃にはだいたい30歳になっているので家庭もあり、アルバイトをしている人が多いです。だいたい週2〜3回は行っていると聞いています。ですから、その間月収40万ぐらいでしょうか。大学院で無事論文を書けば博士号がもらえます。ここで気を付けなくてはいけないのは、臨床とは全く関係ない研究をしている人が多いので、博士号を持っている人がいい医者ということは全くないどころか、4年ほどちゃんと医者として働いていないわけで持っていない人のほうが医者としての経験は長いとも言えます。

 臨床を純粋に4、5年やっていると専門医の試験を受けることができます。この期間は科によって違います。これが一つ一人前になったという印でもあります。ただ、この制度ができたころは(今もそういう科もありますが)受ければ誰でも合格したという時もあり、この制度の価値はだんだん上がってくるように思います。

 海外に留学とかを考えている人はこの後に行くことが多いです。期間は人によりますが、海外を体験しに行く人は半年ぐらい、ちゃんと仕事をしたい人は2年とかそれ以上滞在することになります。ここで問題は大抵の人は基礎医学の研究で留学することになります。医者として働くには、アメリカではUSMLEというアメリカの医師免許をとる必要があります。これが大変なようです。一番大変なのは実技があることです。外人の患者と医療面接、診察までする必要があり、語学的に劣る日本人には不利になっています。この事実を知らずにアメリカでも医者として働いてみたいと思っている人もいるかもしれませんが、かなりの覚悟が必要です。ただし、日本の医師免許で働くことのできる国もあります。僕の知っている限りでは、オーストラリアやオランダはそうです。

 その後、大学病院をはじめ大学の関連病院で働くことになります。ここでも、基本的には、国立は安く、私立は高いという傾向は同じです。また、大学病院ではポストが少なく、40歳ぐらいにならないと常勤にはなれない科も多いです。結局、最先端の治療をしたいか、待遇を選ぶか、人それぞれという感じになります。手術が上手ければ給料がいい、忙しい所が給料がいいなどいうことは現在残念ながらありません。

 最終的には、40ぐらいかそれ以降ぐらいに開業する人も多いですが、今後老人の自己負担が増えれば医者にかからない人が増えて、開業医が儲かるかどうかはわからなくなってくると思います。また、開業資金は内科などではかなりかかってしまうので、それがペイされるかは怪しいところです。自分の親の開業を引き継ぐのがベストでしょう。その点、費用のかからない精神科、皮膚科、比較的機械のいらない小児科などは容易に開業できるかもしれません。ただ当然儲かる保証はできません。

 最近では病院が新設されることも少なく、病院の数が増えません。それは医者のポストが増えなくなってきているということで、院長は当然のことながら、部長にもなかなかなれない状況があります。そういった環境に耐えられなくなって開業する人もいるようです。大学の教授ですら退職後院長にはなかなかなれないということで、任期の途中でも大きな病院の院長の席が空くとそちらに移るということもあります。

 このように医者の生活はなかなか大変であることは間違いなく、さらに今後環境が悪くなっていくことも間違いありません。その辺りはよく考えて医学部に進んでください。

2.医師の数(想像も含めて)

 医者の数に関しては、制度的に問題もあり、絶対数がどうというよりもバランスが悪いという印象です。現在圧倒的人気がある科はいわゆるマイナー科と言われるもので、具体的には眼科、耳鼻科などです。おおまかに言うと外科、内科、小児科、産婦人科以外という感じです。原因の一つとして、医師に占める女性の割合が増えていることもあると思います。ただ、これらの科は飽和状態でない印象を受けますが、開業がどんどんされているので地域によってはすでに過剰になっているところもあります。例えば診療所の廃業が最も多いのは眼科です。それにも関わらず今も特に女性には人気が高く、過剰状態に突入する可能性は大いにあります。

これと対照的に今は基本的にしんどい科は人気がありません。ですから、そういう科にいけば、10年後などには足りなくなってきて仕事はいくらでもあるという状況も考えられます。ただし、しんどいことに変わりはありませんが。

 全く足りていないのが、僕が思うには、産科でしょうか。少子化ということで当然産まれてくる子供も少ないですが、それにしても少なすぎます。理由は、生活が不規則になるということが大きいと思います。子供が産まれるのに、時間を考えてくれるわけはなく、いつ何時呼び出されるかわかりません。その辺りが人気のない原因だと思います。今、産科はどこの大学でも志望者が少なく、今後足りない状況が深刻化してくると思います。
 小児科に関しては、昼間というよりは夜間の救急に人手がない状態です。今は、採算が取れないということで市民病院でも小児科がなくなっていくという状況にあります。例えば、川西市民病院などは最近小児科がなくなったと聞いています。さすがにこれではいけないということで、今後保険制度が改善されることも考えられます。
 それから、意外に患者の多いのが精神科です。全体に対して病院数では1割強、病床数では2割強を占めます。そんなに患者がいるのかという印象を受けるかもしれませんが、普段生活していると出会わないだけです。実際には、それだけの患者がいるのです。また、社会的入院といって家族が退院を嫌がって入院し続ける人もかなりいます。その割に精神科医は多少足りない状況かもしれません。

 

3.今後の医療制度、医療経済(想像も含めて)

 皆さんご存知のように日本の国民医療費は30兆円。国の財政が破綻している状況ではこの医療費を削減する、患者の自己負担を増やす、という流れがどんどん進むと思われます。そうなると、医師の待遇も良くなるとは考えにくいのが現状です。

 一つの可能性として、今の保険制度が崩壊するということが考えられます。その一つの流れが、包括医療と混合診療(自由診療含む)です。混合診療に関しては今話題の特区で実現するかも知れないと言われていますが、官僚、医師会の反対でやはり無理ではないかという話です。包括医療は疾患名が決まった時点でそれに対しての保険点数を決定するというものです。現在は医療行為それぞれに対して保険点数が決められており、やればやるほど儲かるという状態で、それが医療費拡大の一因であることは否定できません。手術をした場合にも、ミスをして治療をどんどん追加すれば、どんどん儲かるという状態です。包括医療になれば、手術の合併症などが起こった場合に病院側の負担となってしまうので、できるだけ正確に行うようになるだろう、不必要な治療はしないようになるだろうという風に考えられています。自由診療は各病院で医療費を決められるという感じのものです。今は小さい個人病院で手術しても、大学病院で手術しても保険点数は同じです。また、年に1回しか手術しない人も週に1回手術する人も同じ点数です。自由診療になれば、そのような不自然な状況が改善され、市場原理に従って、より良い医療を提供する病院、医師が儲かるようになると考えられています。こうなると、医師の世界にも競争が起こり、結果としてより良い医療を国民に提供できると思います。

 もう一つ、最近医療訴訟がどんどん増えてきています。だいたい医師はそれに対する保険に入っています(保証額は1億とか)。保険会社に弱みにつけこまれて保険料はどんどん上がると思います。今後給料が安くなると予想される上にそういったリスクが上がってくるわけで、とても割に合うようには思えません。その対策としてますます自分の専門以外は診ないという状況ができてくると思います。

 今の日本は悪いと誰もがわかっている制度でもなかなか改善されません。また、医者になる人自体裕福な人が多く、また仕事に生きがいを持っている人のいい人が多いため、あまり不平不満が起こってこないという現実もあります。一般的には労働組合もありません。というわけで現行が改善されるということはあまり期待しない方がいいと思います。

4.受診する場合の注意

 一つ注意するとすれば、医師に専門以外の病気を診てもらわない方がいいということです。それにはいくつか理由があります。まず、日本の医療制度では自分の専門以外を学ぶ期間はほとんどなく、大学生の間に勉強した程度のことしか知らない人がほとんどです。しかも、医療の進歩は日進月歩で10年前には正しかったことでも今では正しくないこともたくさんあります。ですから、自分の症状から考えて、その専門であろう病院に行くことが無難だと思います。ここで問題は、開業医などでは専門外でも専門家のように看板を掲げているところがあります。現行の制度ではそれも可能になっています。気を付けてください。病院によっては総合診療部といって一通りの病気を診てくれて、その後専門に紹介してくれるという所もあることはあります。

 もう一つは、治療法などに不安を感じたら、他の医師に相談するのが望ましいということです。これはセカンドオピニオンといわれ、常識化していいます。まず、診断ミスということがあります。これは単に診断が間違っていることもありますし、より良い画像診断などが必要となる場合などもあるので、医者が必ずしも悪いわけではありませんが。
 他の医師に相談することは、かかっている医者に悪いと思う人がいるかも知れませんが、上述のように常識化しているので全く問題ありません。例えば、外科の先生には手術がいいですよと勧められたが、放射線科は放射線治療でも同程度の治療成績だと言う場合もよくあります。抗癌剤治療した方がいいですよと言う人もいれば、してもほとんど予後は変わりませんよという人もいます。ある程度いろいろな意見があるのは当然なので、それをいくつか聞いて一番信用できるのを信用するというのが正しい道だと思います。

 それと、次は実に日本的ですが、医者に対してお礼といって高額支払う人がいます。手術時には100万とかそれ以上の場合もあります。これはやめてください。習慣化しているので、渡さなくてはいけないと思っている患者さんもおおいようです。実際断れない場合も多いし、本当に感謝されているのだなと実感することはできますが、無税報酬ということで違法ではないかと思います 。こういう習慣がある限り、医師の本来の待遇が全く改善されません。医者には裏の収入があると思われてしまうからです。また、そういうものを期待する気持ちがどこかで起こってきてしまうのも否定できません。普通の医者はどんな患者に対しても同じように親身に接しようとしています。それを金銭でより気を引こうなどしないでください。意味があるとすれば、どちらかというと高齢の医者が偉かった時代の先生に対して行った場合でしょうか。(大阪は東京より貧しいので、多少少ない傾向にあるようです。)

最後に、自分の身は自分で守るという意識を持って、Severeな病気がわかった場合などは、インターネットなどを使ってしっかり勉強してください。インターネットはどんな人が書いているかは怪しいので、なかなか素人の人には善悪の判断は難しいかもしれませんが、勉強にはなります。手術などする場合には、どういう合併症、予後が考えられるのかなど、医者が全て患者に説明することになっていますが、必ずしもそうとは限りません。そのような時に勉強しておけば患者から質問もできます。そうすることで医者がしっかり自分のことを把握しているか、リスクを理解しているかも確認できます。ここで、きちんと答えずにはぐらかすような答えしかしない医者は何か隠しているか、自信がないということで、他の医者に替えたほうがいいかもしれません。また、しっかり話をすることでお互いの信頼関係も築けるのでどちらにとっても有益だと思います。

一言でいうと、医者を簡単に信じてはいけないということです。日本では医師免許は一度取るとそれ以降特に更新する必要はありません。専門医の制度もありますが、昔は誰でも取れる状態でほとんど意味はなかったようです。同様に博士号も全く関係がありません。それを踏まえて、十分に気を付けて病院に行ってください。

                大阪大学医学部  藤 重夫君 
                

                  ( 三国丘高校48回卒 )


職業選択のガイダンスに戻る

トップメニューに戻る