| 1.財政と私たちの生活
毎日学校で勉強をする。君たちはそのための費用として年間、約14万4千円の授業料を払っている。しかし、それは必要な金額の約6分の1にしかすぎない。公立高校の場合、残りを国や地方公共団体が負担している。その金額は高校生一人当たり年間、約70万円以上になる。私立高校ではその分も保護者が負担することになるが、国庫からも一部補助金が支出されている。
考えてみれば、われわれの生活と財政活動は密接な関連をもっている。朝起きて水道で顔を洗う。トイレに行って用を足し、その水を下水道に流す。道路はたいてい舗装されている。火事になれば数分で消防車が駆けつける。病気をすれば健康保険や国民健康保険から医療費が支払われる。国民一人当たりの医療費の平均は19万5千円。4人家族だと年間約80万円にもなる。保険料だけでは運営できず、国庫から年間5兆円余りが支出されている。医療保険のないアメリカでは、盲腸で1週間入
院しただけで185万円も取られると聞い
た。(だから人々は民間 保険に入る。)
水も安全も決してタダではない。
2、財政の3つの機能と政府の役割の増大
2007年度1年間で約83兆円の予算が使われた。その使用目的を分類すると次の3つになる。
1,資源配分
道路、警察、消防、国防など民間企業では供給が困難なものを提供する。
2, 所得の再分配
累進課税や社会保障などを通して極端な貧富の差をなくする。
3,
景気の安定
恐慌を防ぎ、景気の加熱を抑えることによって、失業やインフレーションが起きないようにする。このような不況期の補正的財政政策は「フィスカル・ポリシー」と呼ばれる。 |
18世紀、A,スミスの時代の政府は、なるべく民間経済活動には介入せず、民間企業では供給が困難な資源配分だけを行なえばよく、あとは市場に任せておくことが最良だとされた(安価な政府)。
ところが資本主義は、A,スミスが言うように放っておいたのではうまく行かないことが次第に明らかになった。経済の運営を市場機構だけに委ねておくと、公共財が不足するほか、所得分配の不平等、恐慌、独占、公害や環境破壊、などといった「市場の失敗」とよばれるさまざまな問題が起きてしまう。
特に1930年代の世界恐慌に際してケインズが書いた『雇用・利子及び貨幣の一般理論』(1936)は、不況期には政府による拡張的な財政政策が不可欠であることを理論的に明らかにした点で画期的なものであった。これにより、それまでのスミスの安価な政府論は否定され、政府の役割は格段に増大した(大きな政府)。
こうして20世紀には、1の資源配分機能に加えて、2の所得の再分配機能や、3の景気の安定化も政府の重要な役割と考えられるようになった。また、ケインズの「大きな政府」の構想は、第二次世界大戦後の福祉国家樹立への道を開くものともなった。
(コラム)
ニューディール政策
1933年からF,ルーズベルト大統領によるニューディール政策が展開されたが、これは確信に満ちてケインズ政策を意識的に応用したものではなかった。なぜなら、基本的に均衡予算主義者だった彼は、1937年に景気が回復の兆しを見せるとただちに財政支出を大幅に削減し、アメリカ経済は再び不況に陥ってしまったからである。これは風邪が治り切っていない病人に、寒中水泳を命じたようなものであった。アメリカ経済の本格的な立直りは、第二次世界大戦の特需を待たねばならなかった。 |
3、歳入(2007年度)
2007年度の一般会計予算は総額83兆円であった。国税の中心となるのは所得税、法人税、消費税である。これにその他の収入を加えると53兆円になる。これがが国税及びその他の収入である。しかし、これでは1年間に必要とされる予算にははるかに足りない。そこで政府は税収の不足分を国債を発行することにより補っている。2007年度に発行された国債は総額25兆円に上る。実に歳入総額の3
1%(これを国債依存率という)が借金により賄われたわけである。
ところで、税収全体に占める直接税と間接税の割合は「直間比率」と呼ばれるが、わが国の国税における直間比率は、約6対4で直接税中心主義がとられている。これに対してフランスなどでは直接税は「個人のフトコロに政府がいきなり手を突っ込んで税金を持っていく印象を与える」ということから嫌われ、
伝統的に間接税中心主義(直間比率、4対6)が取られている。ただし、間接税(消費税など)には、低所得者層の負担割合が高くなるという「逆進性」の問題がある。
4、歳出(2007年度)
歳出総額83兆円のうち、国債費(利子および元金返済)は21兆円を占める。また、地方交付税交付金も15兆円にのぼる。国債費と地方交付税交付金を合わせた計3
6兆円は、国にとっては右から左へ自動的に流れていってしまい、自由にならないお金である。その残りの47兆円が国が自由に支えるお金ということになる。
国が自由に使える47兆円のお金は「一般歳出」といわれ、一般会計全体の約57%を占めるにすぎない。このお金で、公共事業、社会保障、教育、防衛などを行なっている。
歳出額の大きい順に並べるとつぎのようになっている。
@社会保障費(21兆円)
この膨大な金額を扱っているのが厚生労働省である。
A国債費(21兆円)
21兆円のうち利払い費は 9.5兆円にのぼる。
B地方交付税交付金(15兆円)
地方交付税とは、全国どこに住んでいても、最低限の行政サービスを保障するために、国が集めた税金の一部を地方に交付する制度である。
日本の中で一人当たりの所得が低い県は、沖縄、愛媛、鹿児島の各県で、一番貧しい沖縄は東京の約半分程度の所得しかない。地方交付税とはいわば「田舎への仕送り」ということができる。
一方、不況対策や内需拡大、社会資本充実の観点から公共事業は相変わらず多く、7兆円のお金が使われている。また、防衛関係費はGDPの1%以内(約5兆円)とはいえ、一般会計では約6%を占める
。
4、財政投融資
財政投融資は規模も大きく「第二の予算」とも呼ばれる。これは租税と違って、有償資金(利子を付けて返済する必要のあるお金)を用いて、民間では供給困難な大規模な事業や資金供給を行なうものである。
たとえば道路を作る場合、一般道路は租税を財源として建設され国民に無料で提供されるがが、高速道路は財政投融資資金で建設され、利用者から徴収した料金で建設費を返済していく。財政投融資とはいわば、財政政策を金融的手法で行なう手段である。
(1)改革前
財政投融資は、これまでは郵便貯金や厚生年金・国民年金等の積立金などを一端大蔵省の資金運用部に預託し、この資金運用部資金をおもな原資としてきた。しかし、その実態は国民には分かりにくいものであり、その運用はずいぶんずさんだったようである。
たとえば融資先の一つである日本道路公団はいずれ返済不能になる融資が少なく見積もっても25兆円あるといわれた。これは1日700台しか通らないような高速道路まで作ってきた当然の結果ともいえよう。
また、本州四国連絡橋公団の有利子負債は3兆8000億円(1999年度末)あり、年間の利払い費だけでも1500億円と収入の870億円を大きく上回る。このほか、国鉄清算事業団(累積債務26兆円)、国民金融公庫(不良債権1943億円)など、財政投融資は不良債権の山である。財政投融資の融資残高が430兆円のうち、数十兆円はすでに不良債権化しているという指摘もある。
どうしてこういうずさんな融資が行われたのか。民間の金融機関では考えられないことである。結局、財政投融資の主な原資が郵便貯金(255兆円)や年金(162兆円)等であり、これら
は政府が保障することから、こうしたずさんな運用がなされたと考えられる。
(2)三つの改革
2001年度からは財政投融資のしくみが大きく変更された。改革のポイントは簡単に言えば市場原理の導入であり、具体的には次の3つの改革が実施された。
第一は入口システムの改革である。郵便貯金、年金積立金は資金運用部への預託義務が廃止され、金融市場で自主運用することとなった
。そのために郵便貯金や簡易生命保険の民営化がなされた。
第二に中間システムの改革として資金運用部が廃止され、財政投融資特別会計に改組された。
第三に出口システムの改革として、財政投融資対象機関である特殊法人の統廃合が実施された。そして、各機関は財政投融資に必要な資金は
基本的には財投機関債(やむを得ない場合は財投債)の発行で市場から調達することとなった。
(3)財投機関債とは?
2001年度の改革で、財政投融資の資金調達方法は、各特殊法人等が財投機関債を金融市場で発行し、自己資金を調達することとなった。しかし、実際には民営化して自立できるだけの体力のない特殊法人に、金融市場から直接資金調達をすることには無理があった。財投機関債の発行額が少しずつ増加しているとはいうものの、大半は財政投融資資金特別会計が発行する財投債という国債(政府保証あり)によって一括し資金を調達し、各機関に融資する方法がとられている。
5、公債残高の累増問題
1.とどまるところを知らない国債発行
わが国が最初の国債発行に踏み切ったのは40年不況のときであった。政府は昭和40年度補正予算で総額2590億円の赤字国債を発行する特例法を成立させた。
翌1966年度からは建設国債が毎年発行され、1973年のオイルショックのあと1975年度からは赤字国債も発行されるようになった。その後、20年あまり毎年、平均約10兆円の国債を発行してきた。

特に山一証券が倒産した1997年以降の発行額はすさまじく、98・99・2000年度の3年間だけでも105兆円が発行された。
この結果、現在、国債発行残高は547兆円にものぼっている(2007年度末)。これは1万円札を積み上げると
5470qとなる。北海道から沖縄までの距離が約3000qであるから、ほぼ往復できる距離である。
財政赤字を各家計にたとえれば、5470万円の住宅ローンを抱える家計が、1年に830万円必要とすることろ、収入が570万円あまりしかないために、
毎年250万円ずつ借金をしているようなものといってよい。いったいどうするつもりなのだろうか。
公債残高の増加は利払いや元金返済などの国債費を増加させ、財政の硬直化を招くほか、将来世代への負担を残す。
不況期に公債を発行するというケインズ政策は、議会制民主主義と相容れないとするブキャナン教授らの批判は傾聴に値する。
(コラム)1兆円というお金
日本銀行大阪支店を訪れたことがある。そこで生まれて初めて1億円の札束を見た。床に積み上げれば高さが1メートルになるが、運びやすい形にビニールパック詰めされている。持ち上げてみる。ずしりと重い。10キログラムあるという。平均的なサラリーマンが一生かかって稼ぐ所得が3パックか4パック。
われわれが日常生活でイメージできるお金は1億円までである。では1兆円とは? かりに毎日100万円使っても、全部使いきるには2700年あまりかかる!!
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2.政府債務の限界
では、日本経済はいったいどのくらいの負担に耐えられるのか。
かりに、GDPの2倍と考えるとするならば、1000兆円が限度である。一方、個人金融資産が1300兆円あるから、そこから個人のローン
600兆円を引いた700兆円あたりが限度の目安と考えることもできる。
その限度に近付けば、やがて国債の買い手がつかなくなり価格は暴落し、金利は上昇する可能性がある。10年もの国債の利回りは通常5〜6%であるが、現在は1、
5%の低水準にある。もし国債価格が暴落し金利が8%程度に急騰したとすれば、企業の資金繰りは急速に悪化し、株式市場は暴落し、為替市場で円も暴落する。債権・株・為替のトリプル安である。また、金利の上昇により、一般会計にしめる金利負担は加速度的に増加し、この面でも日本財政は破綻の危機に直面する。
そうなれば、政府は財政法を改革し、日銀引受の国債発行に踏み切らざるをえなくなり、ハイパーインフレに襲われる。そして為替レートは一挙に円安になる。
3.増税もインフレも同じ
医者が「この患者はもうすぐ死ぬ」と予測して、それが当たったからといって手柄にはならない。治療に成功して初めて名医である。経済学もこれと同じである。
財政赤字を解消する方法は、基本的には
@歳出を削減する
A増税をする
Bインフレを起こす
の3通りしかない。
もし、@Aの努力で解決できなければ、最後の手段はハイパーインフレである。「借金を返済できなくなったらインフレ」ということは歴史の教えるところである。しかし、増税もインフレも、国民が負担するという点では全く同じである
ことを忘れてはならない。借金をチャラにするということは、必ず誰かがそれを払うからチャラになるのである。
インフレの場合、銀行にお金を預けている人やお金の貸し手(=国債保有者)が大損をする。そしてその富
は借り手や土地保有者に移転される。すなわち、預金者や国債保有者を犠牲にして、政府が得をする。銀行に預金しているのは国民である。国債を保有しているのは銀行であり、そのお金は元々国民の預金である。結局、国民が負担しているという点では、増税と全く同じなのである。
ただ、インフレの場合、その負担がだれにどのくらいかかるかはっきりしない、という長所(?)がある。政治家の頭の中には、もうすでにインフレにするプログラムがインストールされているのかもしれない。1990年代に2600%のインフレを経験したロシアだって、それでつぶれたわけではない。政治家は、腹の底では「最後はインフレを起こせばいい」などと思っているのかもしれない。そういう事態を予測して、5億円・10億円以上を保有する富裕層は、すでに円資産を米ドルなどの外貨建資産に乗り換え、リスクヘッジを終えているとも言われている。
(コラム)
国債を保有しているのは誰か。
国債は、一般に証券会社の窓口で買うことができる。しかし、国債残高547兆円のうち、個人が保有しているのは約2%にすぎない。残り98%は法人が保有している。
多い順に記載すると、以下のようになっている。
1
郵便貯金・公的金融機関 29、9%
2 銀行その他金融機関
25、2%
3
保険・年金基金 19、8%
4 中央銀行
11、3%
5
海外
5、8%
その他 (資料)日銀「資金循環勘定」 |
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(コラム)
10年ものの国債の金利
代表的な長期金利として10年ものの国債の金利がある。今、1.5%台で推移している。一般的に、景気が悪くなると安全性の高い国債が買われ、国債価格が上昇し、国債の利回りが低下する。つまり、「国債の利回りが低いと景気が悪い、国債の利回りが高いと景気がいい」、という判断材料の目安になるのである。このことを知っていると、日経新聞に毎日載る10年ものの国債利回りを見るのが楽しみになる。マーケットが今の日本経済をどのようにみているのかがわかるのだ。
ただし、国債を発行しすぎて買い手がつかなくなり、国債価格が暴落しても利回りは上昇するから、そのあたりの判断は注意を要する。
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(コラム)
インフレ時の資産運用
財政が破綻してインフレになると、金利が急騰し、最初は株式市場も暴落する。しかし、いつの時代にも株式はインフレに強い。インフレが本格化すると、やがて余剰資金は株式市場に流れ込み、株価は上昇に転じ、強力なインフレヘッジとしての機能を果たすと考えられる。ただし、銘柄の選択にあたっては、将来性のある企業に限定すべきであろう。また、外貨に乗り換えておくのも一つの方法である。従来は土地や金もインフレヘッジとして買われたが、現在の情勢を見ている限り、インフレヘッジになるかどうかは断定できない。 |
6.その他の課題
1.高齢化への対応
今後日本は急速に人口の高齢化が進む。ピークの2020年には、4人に1人が65歳以上のお年寄りだという。それに伴い、年金や医療費などの社会給付費が今後急速に増加すると見込まれる。1990年度47兆円だった社会保証給付費は、西暦2025年度には250兆円にのぼると予測されている。この財源をどうやって調達する
のか。今の日本の国民負担率を欧米並みに高めるのか。それとも自助努力だけで乗り切れるのか。ちなみに現在の日本の租税負担率[(国税+地方税)/国民所得]は約
25%であり、これはアメリカとほぼ同じ水準である。
2.税の不公平
所得税は、「収入」から「経費」を引いた「課税所得」に一定の税率をかけて計算される。税務当局が実際の課税所得の何%を捕捉しているかを「捕捉率」というが、働いている人の約8割を占めるサラリーマンの捕捉率はほぼ100%に近
く、自営業者は5〜6割、
農家にいたっては捕捉率は3〜4割程度といわれる
。このことから税の不公平は象徴的に「トーゴーサン」とか「クロヨン」とかよばれる。直接税中心主義のわが国では脱税という不公が起こりやすい。
3.社会資本の充実
社会資本は道路・港湾・鉄道などの産業関連のほか、住宅や上下水道など生活関連のものとがある。わが国では高度成長の過程で産業関連施設の整備が優先されてきたため、生活関連施設の整備が欧米諸国に比べて著しく劣っているといわれる。
道路、下水道、公園、文化施設といった生活空間としての町並みは豊かさを構成する重要な要素である。ところが、下水道の普及率や都市部における一人あたり公園面積は、欧米に比べ極端に低い。
実際にロンドンを訪れて驚いた。日比谷公園の何倍もある大きな公園が、市内のあちこちにある。聞けば昔、国王の狩猟場だったところを公園として残したものだという。たまの日曜日、家族でゆったりできる広い公園が今の日本にもほしい。お金がないと「狭い家」でゴロ寝をしているしかないのが今の日本の姿である。
日本は確かに豊かな社会と言ってよい。しかし、まだまだ改善する余地がありそうだ。
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