金融政策

 

1.金融とは

 資金が余っているところから足りないところへ融通することを金融という。資金が余っているところは家計であり、足りないところは政府企業である。

 家計から企業・政府への資金の流れには二つのルートがある。
一つは直接金融といわれ、家計が株式や社債、あるいは公債を購入する方法である。もう一つは間接金融といわれ、家計がいったん金融機関に預金した後、金融機関が企業に貸し出したり、公債を買う方法である。
 日本では個人がリスクをとることを嫌う風潮があり、間接金融が多い。しかし、企業にとっては直接金融の方が安いコストで資金を調達できるため、政府は間接金融から直接金融に移行させようとしている。アメリカは圧倒的に直接金融が多い。

 経済理論の習得のためには、常に現実と理論を対応させて考えることが大切である。日本の銀行の資金量を大きいものから並べると次のようになる。

(答え)                 (データは2007年3月)

1位 三菱東京UFJ銀行 資金量106兆円
2位 三井住友銀行 資金量69兆円
3位 三菱UFJ信託銀行 資金量57兆円
4位 みずほ銀行  資金量54兆円

ちなみに2007年に民営化された「ゆうちょ銀行」の資金量は183兆円である。  
                              

 

2.マネーストック
 現在日本銀行が発行している現金通貨は約72兆円(その内の約85%は1万円札)である。しかし、 私たちが日常生活で支払いに使うのは現金だけではない。電気料金やガス料金は銀行の普通預金から自動的に引き落とされるし、当座預金から振り出される小切手や約束手形も、現金と同じように支払い手段として利用される。また、定期性預金もその90%は自動的に融資されるので、これもほとんど現金と同じである。このような理由から、一般に現金に預金通貨を含めた金額を「通貨」と定義している。

  通貨=現金+預金

 ところで、日銀は2008年8月に、従来の「マネーサプライ」と読んでいた統計を約30年ぶりに全面的に見直し、新たに「マネーストック」統計に切り替えた。これは、200710月より郵政事業が民営化され、郵便貯金が、一般の民間銀行と同様に、銀行法に基づく「ゆうちょ銀行」となったことに対応する。つまり、これまでは郵便貯金を銀行預金と区別しM1やM2+CDに郵便貯金を入れないでいたが、ゆうちょ銀行が民営化された結果、銀行預金とゆうちょ銀行を別々に扱うのは不自然となったからである新しい通貨の定義を要約すると次の通りである。

@新M1 従来のM1に郵便貯金・JA貯金などを加える。
A
従来マネーサプライの指標として重視してきたM2+CDは「新M2」とする。
B新
M3=旧M3CD として、この新たな「M3」をマネーストック統計の代表的指数とする。

 2008年11月現在の統計は以下の通りである。
   現金通貨       = 72兆円・・・・・(1)
   預金通貨       =402兆円・・・・・(2)
   準通貨(定期性預金)=535兆円・・・・(3)
   CD(譲渡性預金)   = 23兆円・・・・(4)

 これから
   M1= 474兆円・・・・(1)+(2)
   M2= 735兆円・・・・旧M2+CD。上の統計からは計算できない。
   M3=1033兆円・・・・(1)+(2)+(3)+(4)
 となる。
 なお、マネーサストック(=M3)のうち、日銀が直接コントロールできる通貨量(これをハイパワードマネーという)は、現金通貨72兆円と、支払い準備のための通貨約 8兆円の合計80兆円ほどにすぎない。

 

 

3.信用創造

 ところで、72兆円のお金は銀行に預金され、また貸し出しされる。こうして預金と貸し出しを何回も繰り返すことによって、銀行全体として膨大な預金が蓄積され ていく。これを信用創造という。
 2008年現在、現金通貨72兆円に対して、要求払い預金(普通預金や当座預金など)や定期性預金などを合計すると約 1033兆円(=M3)になる。
 一般的に、 新たに信用創造された金額は次の式から求められる。

  信用創造額=(最初の預金額/預金準備率) − 最初の預金額

(練習問題)
 A銀行が日銀から1000億円借りた。預金準備率を10%とした場合、新たに生み出される信用創造額はいくらになるか。
 (答)   (1000億円/0.1) − 1000億円=9000億円

 

 

 

4.金融政策
 金融政策とは日本銀行が行う政策であり、具体的には次の二つの方法がある。

公開市場操作(オープンマーケット・オペレーション)  これは、都市銀行などが保有する国債・手形などを日銀が直接買ったり(買いオペ)、売ったり(売りオペ)する政策である。不況期に買いオペをやれば、その分日本全体に流通する通貨量が増大し、それがコール市場の金利を引き下げ、その結果企業 への貸し出しが増え、投資が増加し、景気がよくなる。この政策は日常的に頻繁に行なわれている。しかもダイレクトに通貨量をコントロールできるため、非常に強力な政策である。
支払い準備率の変更 これはいざというときに備えて、金融機関の預金の一定割合(現在は1.2%程度)を日銀に無利子で強制的に預けさせる制度である。もし支払い準備率を引き下げれば、各金融機関の貸し出しに回せる資金がその分増え、それが企業の投資を増やし、景気が良くなる。しかし、この政策はほとんど使われることはなく、実際、1991年にそれまでの1.75%から現在の1.2%(預金額2兆5千億円超)に引き下げられて以来変更されていない。いわば金融政策の変化球というところである。したがって、支払準備率の変更操作を、日常的に使われる公開市場操作と同列に扱うことは不適切といえる。


 

.金融の自由化
 これまで日本の金融機関は護送船団方式と呼ばれる方法で、政府によって手厚く守られてきた。例えば、証券業務と銀行業務は完全に分離され、互いに縄張りを侵すことなく利益を確保できるようになっていた。一方、銀行も長期信用銀行・信託銀行・都市銀行・地方銀行・信用金庫などでそれぞれ融資対象が重ならないようにし、互いの縄張りを侵さないシステムが出来上がっていた。さらに、金利は需要と供給を反映せず大蔵省の指導で一定に定められ、銀行間の金利競争は制限されていた。預金金利に差がないから、預金獲得競争は預金者への粗品で行なうほかない。しかし、その粗品ですら大蔵の指示で決められていたという笑い話のような本当の話がある。

 この結果、競争力のない非効率な金融機関は淘汰されることなく温存された。しかし、国際化の進展とともに、ビッグバンで鍛えられたアメリカの金融機関との競争が激しさを増すと、日本の金融機関は苦況に立たされた。動物にたとえれば、日本の銀行は保護されたペットであり、アメリカの銀行は弱肉強食の野生動物である。ペットと野生動物が同じ檻の中に入れられればどうなるか。国際競争に勝ち抜くためには、日本も金融の自由化に踏み切らざるをえなくなった。

 こうして1980年代に入り、まず金利の自由化が行なわれ、さらに1996年の日本版金融ビッグバンにより業務範囲の自由化が一気に進んだ。1998年からは、それまで証券会社でしか買えなかった投資信託が銀行の窓口でも買えるようになった。また、金融機関の再編が旧財閥の枠を超えて急速に進み、三井・住友グループ、三菱 東京UFJグループ、みずほグループ(富士・一勧・興銀)の3つに統合された。さらに、金融持ち株会社も解禁された。

 一方、競争の激化にともない破綻に追い込まれる金融機関もでてくる。そのときに備えて、ペイオフ制度も導入された。これは金融機関が破綻した場合、預金保険機構が預金者一人につき元本1000万円とその利子を保証しようというものである。(もし、何千万円もお金があれば、いくつかの銀行に分けておくとよい)。

 

.バブル崩壊後の金融政策
 バブルが崩壊し土地の担保価値が暴落した結果、土地を担保にお金を貸し出していた各金融機関は予想どおり大打撃を受けた。たとえば、住宅金融専門会社(住専)7社が、バブルの時に買った13兆円の土地は3兆円程度に値下がりしてしまい、資金を貸し付けていた金融機関はその資金を回収できなくなってしまった。金融機関の保有する不良債権の総額は、40兆円とも80兆円とも言われるまでに膨らんだ。
 
 不景気になれば財政・金融政策によって景気を回復させることが可能である。すくなくとも経済学の教科書にはそう書いてある。ところが1990年代の日本の不景気は、いくら赤字国債を発行して公共事業をやっても、公定歩合をいくら引き下げても景気は本格的には回復しなかった。いったいなぜなのか。
 もっと言えば、1987年に公定歩合を2、5%に引き下げたためにバブルが発生したのに、2001年に0、25%まで引き下げたにもかかわらず、バブルが発生しないのはなぜか。

 一般に、金融政策が効果があるのは、 金融を緩和することで日本全体のマネーサプライが増加し、最終的にはそれが企業の投資活動を活発にするからだと考えられる。しかし、金利にたいして企業投資がどのように反応するかは、その時の経済情勢による。
 金融政策と経済活動の関係は、ちょうど馬と馬の手綱の関係に似ている。すなわち、馬がいくら元気に走っていても、手綱をひけば馬は必ず止まるが、馬自身が弱っており元気がないときに、いくら手綱を緩めても馬は走り出さない。金融政策の効果とはそういうものだと理解しておいた方がよい。

 

.ゼロ金利政策と量的緩和政策
 不景気の際に必要なことは、世の中に出回るお金の量を増やし景気を良くすることである。1999年以降、日銀はゼロ金利政策や量的緩和施策が採られ、貨幣供給量を増やそうとした。

ゼロ金利政策  銀行同士が無担保でお金を貸し借りするコール市場に日本銀行が大量の資金を供給し、コール市場の金利をほぼゼロに近づける金融政策である。銀行はタダ同然で資金を調達できるため、企業への融資がしやすくなり、景気が刺激される。日銀は1999年にゼロ金利政策を導入し、最終的には2006年に解除した。
量的緩和政策  ところが、1999年にゼロ金利政策を導入しても景気が回復しなかったので、2001年、日本銀行はあらたに<b><font color="#FF0080">量的緩和政策</font></b>を始めた。これは日銀当座預金(日銀と民間金融機関の取引に使われる口座))の残高を買いオペなどにより増額し、これにより金融機関に潤沢な資金供給し景気刺激を図る政策である。2006年、量的緩和政策は解除された。


 

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