インフレーションと失業

 

  資本主義の2大害悪は失業とインフレーションである。第二次大戦後、各国はケインズ政策を採用することによって失業・恐慌問題のある程度の解決に成功した。しかし、今度はそれに代わって、ケインズ政策のいわば副作用ともいうべきインフレション問題が各国を悩ますようになった。

 

1、インフレのスピードのよる分類
 インフレーションとは、継続的な物価上昇である。代表的な指数としては消費者物価指数や卸売物価指数があるが、これらが継続的に上昇する現象をインフレーションという。 インフレーションは、そのスピードによっておおまかに3つに分類される。

クリーピング・インフレーション 年率数パーセント程度の物価上昇。
(例)日本の高度成長期のインフレ
ギャロッピング・インフレーション 年率数十パーセント程度のかなり激しいインフレ。
(例)石油ショック後の狂乱物価
ハイパー・インフレーション 物価が1年間で数十倍・数百倍になるインフレ。
(例)戦間期のドイツで1913・14年を1とすると1923年には1兆2470億倍になった例がある。 また、最近では1991年から92年の2年間に、ロシアは物価が26倍になるというハイパーインフレーションに見舞われた。この結果、為替レートは1ドル=112ルーブル(1992年5月)から1ドル=593ルーブル(1993年1月)まで下がってしまった。


 

2、インフレがいけない理由
 物価上昇がいけないことだと何となく思っているが、いざ「なぜいけないのか」と問われたら答えられるであろうか。一般にインフレは次のようなさまざまな弊害をもたらす。

1, 社会的不平等をもたらす。
 値上がりした「モノ」をもっていた人は大儲けをし、逆に銀行に預金していた人や現金をタンス預金していた人は、貨幣価値が下がった分大損をする。また、借金をしていた人は得をし、お金を貸していた人は損をする。インフレーションが発生すると人々は現金を手放し、値上がりが期待される土地や株に乗り換える(インフレ・ヘッジ)。バブルの時期には「5千万円で買った家が1年後には1億5千万円になった」などという話をよく聞いた。特に資産インフレの場合、儲けるにしても失うにしても、桁違いの不平等が発生する。

2, 物価上昇が先行し、賃金の上昇が追いつかない。
 一般にインフレが起きた場合、賃金の引き上げは1年以上遅れることが多い。このため給料で生活している人々の生活が苦しくなる。

3, 年金生活者など、社会的弱者の生活を破壊する。
 インフレは定年退職後、年金や銀行預金の利子で生活している高齢者の生活を直撃する。

 

3、インフレの原因
 インフレの原因としては、大きくいって次の三つの説が有力である。しかし、学者によって意見が異なるため、原因を一つに絞りこむことは困難である。

1,貨幣数量説(マネタリズム)
 中央銀行が「貨幣」を発行しすぎるからインフレーションが起きるとする説である。インフレの原因が需要側にあるとする点ではディマンドプル説と似ているが、超過需要が「貨幣」の超過供給によってのみ生み出されるとする点で異なる。 古典的な貨幣数量説によると、一般的に次の式が恒等的に成り立つ。

    MV=PT ・・・・・・(1)


      ただし、M=貨幣量
           V=貨幣の流通速度
           P=物価水準
           T=取引量 が恒常的に成り立つ。

ここで 式を変形し、

    P=(V/T)×M・・・・(2)

  ここで、V/T =一定と仮定し、(2)式を右辺から左辺への因果関係として読むと、物価水準Pは貨幣量Mに比例するという貨幣数量説が導かれる。
 貨幣数量説の立場からは、インフレはきわめて金融的な現象であるとされる。そして、インフレを起こさないために、金融当局に適切なマネー・サプライの管理をすることが厳しく求めれる。

 現代の代表的な貨幣数量説論者(=マネタリスト)であるM、フリードマンは、中央銀行の役割は毎年一定の割合(3〜4%程度)の通貨を機械的に供給することにとどめるべきで、なまじっか人為的な金融政策を行なうからかえって経済が混乱すると主張して、ケインズ政策を批判している。フリードマンはさらに、裁量的な財政政策を含めおよそ人為的な政策は長期的には全て無効で、全てを市場に任せることが最良だと主張している。

 

2,ディマンド・プル説
 財・サービスの価格が需要と供給を反映して決まるとするならば、ディマンド・プル説はインフレの原因が需要側にあるとする考えである。たとえば、500兆円の供給能力しかない社会に550兆円分の需要を作り出してやれば、需要が供給を上回りインフレが生じる(ケインズはこれを「真正インフレーション」とよんだ)。また、需要の大きさが完全雇用産出量以下であったとしても、完全雇用に近づけば一部の商品に「ボトルネック」が発生し物価上昇が生じやすくなる。

 第二次大戦後、各国でケインズ政策が採られるようになった結果、不況になると財政・金融政策によって「有効需要」が創出され、物価は下落しにくくなった。戦後、各国で広くみられるクリーピング・インフレの発生はケインズ政策の採用と無縁ではない。  ディマンド・プル説によれば、インフレは超過需要が発生するから生じる。そこで物価の安定を図るためには、適切な財政・金融政策によって、国内の総需要全体を抑制することが必要となる。具体的には、政府支出の削減、増税、公定歩合の引き上げ、売りオペ、預金準備率の引き上げ、等の政策が考えられる。

 

3,コスト・プッシュ説
 現代においては市場の寡占化が進行し、企業が価格支配力を持つことが多い。そこでは価格は需要と供給によって決められるのではなく、企業が生産コストに一定の利潤を上乗せして決められる。したっがて、賃金や原材料の価格が上昇した場合、それが製品価格に転化されることによってインフレが生じる可能性がある。これをコスト・プッシュ型のインフレーションという。1973年の石油危機に際して、原油価格が4倍になったために日本経済が激しいインフレに襲われたのはこの例である。(ちなみに、輸入インフレもコスト・プッシュインフレーションの一種とみなすことができる)。この説は賃上げを求める労働組合に対抗する理論として経営者によって援用されることもある。

 現代においては市場の寡占化が進行し、管理価格による「価格の下方硬直性」や、暗黙のうちに企業間競争を制限するといった現象が広く見られる。そこで、コスト・プッシュ型のインフレに対しては、独禁法の厳格な運用などで企業間の自由な競争をとりもどし、価格競争を促進させることが必要となる 。また、必要ならば賃金の上昇率を生産性上昇率以内に押さえるよう、政府が直接的な規制をしコスト・プッシュ型のインフレを回避する政策も考えられる (所得政策)。しかし、所得政策はこれまで日本では実施されたことはない。

 

4、インフレと失業の関係
 世の中には「あちらを立てれば、こちらが立たず」ということがよくある。このように、一方を良くすれば他方が悪くなる関係をトレード・オフ関係という。1958年、イギリスの経済学者、AWフィリップスは一つの曲線を提示し、物価上昇率と失業率の間にトレード・オフ関係があることを示唆した。すなわち、好景気を望めばある程度の物価上昇は止むを得ず、また物価を下げるためには不景気にならざるをえないというやっかいな関係が資本主義にあるというのである。

 もし経済が、「好況・インフレ→金融引き締め→不況・物価沈静→金融緩和→好況・インフレ」というサイクルを繰り返すとするならば、景気が良くしかも物価も安定しているという状態は望むべくもない。要は、フィリップス曲線のどの点を選択するかという問題になる。したがって、クリーピング・インフレ程度なら経済成長に伴うコストと考える人も多い。政策を誤ると最悪の場合には、スタグフレーション(不況下の物価高)に陥ることもある。 

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