衝突

 

(2001年9月18日)

 飛行機がビルに突っ込むシーンなど誰が想像したであろうか。いきなりテレビの画面に入り込んできたかと思ったら、 そのまま火柱をあげて消えてなくなった
 一瞬、あっけにとられて何が起きたか理解できなかった。重大な事件というのは、そういうものなのかもしれない。パールハーバーでの死者が約2400人というから、今回の事件はそれをはるかに上回る。しかもアメリカにとって、本土自体が戦場となったことは南北戦争以来なかったことだから、その衝撃の大きさは想像以上のものがあろう。

 それにしても、110階もある世界貿易センタービルが、あれほど簡単に崩壊するとは思わなかった。ワンフロアーにつき3360トンの重さがあり、80階部分に衝突したため、その上に乗っていた3360トン×30階分の重さに耐えきれなくなり、崩壊したらしい。専門用語でこれを「圧壊」というのだそうだ。近代建築の粋を集めて作られた「合理的」な建築物は、それが合理的であればあるほど「非合理」な力には弱かったといえる。

 犯行はどうやらイスラム原理主義をかかげるラディンという国際テロの黒幕によるものらしい。彼はサウジアラビアのゼネコン大手の御曹司で、3億ドル以上の資産をもち、600人の精鋭に守られ、アフガニスタンの砂漠のテントのなかから衛星電話やパソコンで世界の同志に司令を発信していると伝えられている。

 アメリカはただちに報復態勢に入った。NATOは北大西洋条約第5条にある「集団的自衛権」を初めて行使すると発表し、アメリカ議会は今回の事件に関連して400億ドル(4兆2千億円)の予算を承認した。

 だいたいアメリカには、何年かに1回大がかりな戦争をやり、古くなった武器・弾薬の在庫整理をするという、冗談とも本気ともつかない噂がある。
 前回の本格的な戦争は
1991年の湾岸戦争であった。現大統領の父親であるブッシュ大統領のときであった。ちなみにこの時指揮をとったのは現パウエル国務長官である。彼は優秀な人物で、知能指数は200を越えるといわれる。くしくも10年後の息子のブッシュ大統領が就任している今、再び本格的な戦争に突入しようとしている。


 今回の事件がはたしてラディンによるものなのか。仮にラディンが首謀者であったとして、アメリカ対テロリストという対立の構図が、アメリカ対イスラム文明という対立にまで発展しないのか。
サミュエル・ハンチントン教授(ハーバード大学、政治学)が『文明の衝突』を書いたのは1993年であった。

 冷戦後の国際政治は、イデオロギー対立にかわって、西欧文明・イスラム文明・アジア文明などさまざまな文明の衝突の世紀になるだろうという予測をして話題になった。

 原理主義とは「原点回帰」という意味で、もともとは1920年代に聖書の記述をすべて真実と考えるキリスト教原理主義として生まれた。それが1979年のイラン革命以降、イスラムに対しても使われるようになった。
 
今日、イスラム原理主義の人々から見れば、アメリカ文明は堕落しきったものとして映るらしい。麻薬・暴力・犯罪・性道徳の乱れ・離婚・私生児などなどなど。ラディンはアメリカ流のイージーライフになれることを嫌い、エアコンさえ一切使わず、質素な生活を続けているという。イスラム原理主義者が自らの信仰に忠実であろうとすればするほど、行動は過激になっていく。

 いつの時代でも対立はある。しかし、その対立を良きライバルとすることにより、人類が発展してきた面も見逃してはならない。共産主義という一大勢力が登場していなかったなら、はたして資本主義はここまで改善されたであろうか。
 今、望まれるのは、対立を自らの向上につなげる努力である。「右の頬を打たれたら、左の頬を出せ」という教えはいったいどこに行ったのであろうか。元々アッラーも、父なる神もヤハウェも同じ一つの神である。
飛行機の「衝突」を「文明の衝突」に発展させてはならない。
 

南英世の息抜きエッセーに戻る

トップメニューに戻る