東海地震はいつ起こるのだろう。この問題は長年,日本の地震予知研究における 最重要課題である。ここでは単純な数理モデルを測地データの時間変動に適用することにより, 東海地震が数年以内に起こる可能性があることを指摘する。
図1に,国土地理院の2ケ所の水準測量点の位置を示す。図2は掛川に対する 浜岡の相対的な標高の経年変化で,測量は1981年から年4回行なわれている(図では 1980年1月を基準にとって示す)。浜岡 観測点は年間約0.48センチの割合で掛川に対してほぼ単調に沈降していることがわかる。 しかしこの沈降は永久に続くとは考えられない。もしある日突然,急激な隆起に転ずる 時が来るとしたら,それが東海地震の発生にほかならない。それはなんの前触れもなく 起こるのだろうか。それとも事前に地震発生が近いことを知らせるシグナルが 捕えられるのだろうか。
図1 国土地理院の水準測量点,掛川(140-1)と浜岡(2595)。
図2 掛川(140-1)に対する浜岡(2595)の標高の経年変化。
そのシグナルはもう現れているのかも知れない。図3は,図2のデータから年周変化を
取り除くために,前後計5点の移動平均を取って平滑化したものである。浜岡の沈降は
決して直線的ではなく,ふらふらと波打ちながら進行していることがわかる。興味
深いことに,その振動の周期がだんだんと短くなっているようにみえる。
図3に示す曲線は,地殻応力が臨界点に近づいていると考えた数理モデル(図4)を,最小二乗法で データにフィットしたものである。臨界点の時刻tcは,2004.7±1.7年と求まる。 この考えに基づくと,直線的な沈降に加えてベキ乗則に従う変動と,周期がlog(tc-t) に従って短くなる周期変動が重なる。臨界点の近くで曲線が急激に上昇しているのは ベキ乗の項が拡大されてみえるからである。
図3 図2のデータから年周変化を取り除くために,前後計5点の移動平均を取って 平滑化したもの。曲線は臨界現象の数理モデル(図4)を当てはめた結果。臨界点の時刻tc まで外挿してある。
図4 臨界現象の数理モデルの概略。臨界指数を実数から複素数に拡張すると,その虚部は ある条件を満たす任意の周期関数の級数(フーリエ級数)で表せる。これを対数周期振動と呼ぶ。 本研究ではこの級数の第一次項だけを取り,水準データに適用した。
このような単純な数理モデルを,現実の複雑な地殻活動にそのまま適用可能かどうかは
議論の別れるところかも知れない。この水準データの変動が本当に東海地震発生を示唆
しているのかをより明確にするためには,理論,観測の両面でさらに進歩することが
必要であろう。
図5に最近10年間のデータと,臨界点までの数理モデルの予測曲線を拡大して示す。 予測どおりに推移するのか,それとも,予測からはずれて東海地震は起きないのか。 水準測量だけでなく,様々な観測項目をより充実させて注意深く監視する価値はあるのでは ないだろうか。
図5 過去10年間のデータ変動。赤丸はオリジナルデータ。青丸は前後計5点の移動平均を 取って平滑化したもの。
参考文献
G. Igarashi, A geodetic sign of the critical point of stress-strain state at a plate boundary, Geophys. Res. Lett., 27, 1973-1976, 2000.
D. Sornette, Discrete scale invariance and complex critical dimensions, Phys. Reports, 297, 239-270, 1998.