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最近読んだ「エスペラント図書」のリスト


読書記録 (189)
Kiun libron mi legis lastatempe? 

Tien (Johán Valano)

『あちらへ』(ヨハン・ヴァラーノ) 


(23.0 x 15.1 x 1.0 cm: pp 144: IEM (Internacia Esperanto-Muzeo) 社;ウィーン 1997年)
( 2009年9月19日 KLEG の林間学校にて 1,800円 )

Unuvorte
*ピロンさんの語る「ユートピア」とは? 易しいエスペラント文だが内容は濃密。


読書メモ
*死に場所を探してさまよったうつ病患者が「あちら」の世界へ迷い込み、すっかり健康になって帰ってくる。不思議に思った精神科医が彼の案内で「あちら」の世界を自ら体験する... ストーリーに引き込まれてどんどん読み進むことが出来るという本ではない。

*裏表紙のキャッチ・コピーは以下のようなもので、面白いサイエンス・フィクションを期待しようにもできないことが分かる。

  重症のうつ病にかかった男が、「並行して存在している世界(parelela mondo) 」への
  想像を絶する旅を終え、すっかり健康になって戻ってくる。
  彼の言によれば、高山地方のある場所からその世界へ行くことが出来るという。
  彼の治療に当たっていた若い女性の精神科医が、それが本当なのか、
  それともファンタジーなのかを確かめようと彼について行く。
  彼女も同じようなことを経験する。二人とも幻覚を見たのか?
  語り手自身も精神科医で、その女医は彼の指導の下に働いているのだが、
  彼女を信じても良いのか疑うべきか迷っている。
  真相を見極めようと努力したあげく、 彼は、宇宙について、そして彼自身についての概念を
  すっかり変えてしまう真実を発見する。

*エスペラントは精神的にも健康にかなった「良い言語」だと、終生、ザメンホフの創生になる言語の宣伝に努め、2008年1月に亡くなったピロンさんの、これは遺言だな、と思いながら読み終えた。ユートピアはかくあるべき、と主人公の精神科医、クラウジョ(Klaŭdjo: クロード・ピロンさんのクロードから?)の口を借りて書き綴るピロンさんは、だんだんと amo, dankemo, harmonio へとエスペラントの核心へと話を進めてゆく。エスペランティストにはとても分かりやすい、あるいは、改めて考えさせられる結末へと。

*本文には一度も 'esperanto', 'Zamenhof' の単語は出ず、
  la lingvo, en kiu li eksciis, ke mi verkas とか
  la transnacia lingvo とか
  la lingvolanĉinto とか、あるいは
  tiu marĝena lingvo estas disvastigita sur la tuta terglobo
で済ます(「私」の妻、もこの言葉を知っていることは第24章で分かる)。「あちら」の世界の精神がエスペラントの精神といろんな点で類似しているので、エスペラントに触れないわけにはゆかないことは読んでいてすぐ分かる。

*表紙は「あちら」の世界を上空から写真撮影したものを想定したな、と読んでいる間に気づくしかけ。「あちら」へは高山地帯(サファイア湖周辺)の岩ばかりの荒野の中にある赤茶色の、高さ2m足らずの岩が入口となるが、暗いトンネルを抜けると眼前に緑豊かな谷間が広がる!

*テレビや電話、自動車などない「あちら」の世界の実現はとても無理だが、ピロンさんの遺言として記憶にとどめたい。今は、ピロンさんは登場人物の一人、ヤヴォルスキー教授のように「あちら」の世界で幸せに暮らしているのかも...。

*「まえがき」や解説などはない。IEM 発行のクロード・ピロンさんの本、IEM (+ Pro Esperanto) 発行の本のリストが巻末にある。

*「古希」や「喜寿」にならった訳ではないと思うが、「あちら」の世界では「7」が年齢のキーになっている。'dekulo' は70歳の人を言う。

*面白い表現、文章など:
  fonmuziko … 「バック・ミュージック」
  Disfalas io fuŝe farita, sed io bone farita daŭras …エスペラントのことだ!
  iru-diri-ulo …電話はないが、代わりに子供たちが伝令をつとめる。
  Suferi por superi, superi post suferi …インディアンのイニシエーションに際して使われるフレーズ、とか。
  Korpo de porko! …「ちくしょう!」など、悪態をつく言葉として。『エスペラント日本語辞典』にない。
  animhelpisto …「あちら」の世界での「精神科医」のよび方。


* tralegis: 9. 26. 2009.
  


登場人物とその役割(登場順)

  「私(クラウジョ)」…主人公のベテラン精神科医。
  ロベルト・サティーヴァ…「私」の友人の精神科医。懐疑派。
  ダニエロ・ヤヴォルスキー教授…老精神科医。保守的。
     ロンガ・ナズ(Longa Naz':長が鼻)とのあだ名がある。
  ローレーナ・マルグン…若い女医。精神科医。「私」の指導下にある。エリコの治療に当たるが、
     彼の幻覚かもしれないと思われる話を信じてしまい、精神科医たちの委員会で問題となる。
  エリコ…「私」の患者。重症のうつ病患者だった。
  ユモ… jumo とイタリックで書かれる。「あちら」の世界の指導者。
  ビルヤモ・クラールルーナ…「私」の義理のいとこ。ヘリコプターのパイロット。
  ダーリョ・オスペジ…ビルヤモの同僚。サファイア湖地帯の岩山の上を飛んでいる時に
     霧に巻き込まれ、抜け出た時に「あちら」の世界を下界に見る、という経験をする。
  ロジェーロ…「私」のいとこ。12歳年上。「私」が6歳の時、両親の留守中にロジェーロから
     性的暴行を受けトラウマが残る。
  カマコーモ…「あちら」の世界に住む若者。好奇心旺盛で「こちら」の世界を体験したがっている。
  ヴァスカリ…言語の専門家。「あちら」の世界でこっそり録音した会話を聞かせるが、
     どこの国の言葉か分からぬと言う。もちろん、エスペラントでもない!
  マーチン博士…山岳救助隊の救急医。精神科医を信じない。ビルヤモと一緒に「あちら」の世界に行く。
  「私」の妻…名前で書かれることはないが、最終章の第24章、「私」と「私」の妻とロベルトとの
     3人の会話の締めくくりで本作品の最終行でもある言葉は、「私」の妻が「私」を代弁した
      "Al la mond' eterne militanta / ĝi promesas sanktan harmonion (ザメンホフの詩、「希望」の最終行)"
     である。
  ラ・グランダ・ミステーロ(la Granda Mistero) …「あちら」の世界の「神」に相当?



 (2009. 9. 27. 最初の書き込み。)


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