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最近読んだ「エスペラント図書」のリスト


読書記録 (162)
Kiun libron mi legis lastatempe? 

Sur sanga tero (Julio Baghy)

『血の大地で』(ユリオ・バギー) 


(20.4 x 14.6 x 1.3 cm: pp 249: Fenikso 社 第4版 1991年)
(1992年にKLEG図書部より 2,600円 で購入 KLEG図書カタログ(2008年)で 1,100円)

Unuvorte
*表紙写真がこの本の内容のかなりを雄弁に語っている。中表紙に「モザイク小説」とあるように、各章がそれぞれ独立した短編小説のように楽しめる。それらの小説が全体で大きなシンフォニーを奏でているよう。


読書メモ
*全22章。「モザイク小説(Mozaikromano) 」ということで22の短編が読めると考えると、200頁を超える大作も読みやすいだろう。各章は10頁前後で、初学者は一日一章などとノルマを課しても読むのも良い。何よりお話が面白い。最初のうちは読みづらいかもしれないが白軍に捕らえられた捕虜たちが住む収容所といった状況を理解してしまえば読みやすくなるはず。

*表紙裏の紹介記事(後書きを書いている V. Benczik さんによると思われる):
  著者がモザイク小説と名づけている、「血の大地」は Julio Baghy (1891-1967) の「犠牲者たち(Viktimoj) 」の続編であるが、それを知らなくても読んで楽しめる小説である。
  この小説の舞台は、1917年のロシア革命後に勃発した市民戦争下のシベリアである。「血の大地」の主人公も、ハンガリー出身の戦争捕虜、ヨハーノ・バーディーで、これは著者自身である。
  「血の大地」で読者は、このロシアの流血の時代に繰り広げられた人々の運命に関して目をそらす事ができない、時には心を震えさせるような話を聞かされるばかりでなく、この歴史的な時代を直視した、現在これまでに得られる注目すべき証言のいくつかを手にすることになる。シンプルだが見習うべき生き生きとしたエスペラントはバギィーさんの名人芸による。そして、こんな陰鬱なテーマのうちにおいてさえ、心温まる健全なユーモアを編み出すすべを彼が知っていたという事実は真に賞賛に値する...

*「エスペラントに文化があるか」と聞かれた時「『奥さん、まあだまされたと思って!(Kredu min, sinjorino!) 』というすばらしく面白い小説がある」と言い返していた私は、これからは「そればかりでなく、バギィーさんの『血の大地』もある」とつけ加えて答えよう。

「犠牲者たち(Viktimoj) 」の表紙もそうだが、まるで、その小説のために撮影したかのような写真は、有名なハンガリーの映画監督、ミクロス・ヤンチョー(Miklós Jancsó) の≪国際主義者たち(Internaciistojの拙い訳) ≫から採用したものと、巻末でベンツィックさんが書いている。彼自身が選んだものと思われる。

*この小説を読むにあたっては、革命前後のロシアの社会情勢を知っておくと分かり易い。以下は、私が広辞苑を使ってこの本の欄外にメモしておいて時々眺めたものだ。主人公のバーディーは白軍に捕らえられ、捕虜生活を送っている。
 ボリシェヴィキ: 1903年ロシア社会民主労働党内に生まれたレーニンの一派。マルトフ派との組織路線上の対立から生まれたが、12年別党となり、十月革命後、ロシア共産党(ボリシェヴィキ)と改称⇔メンシェヴィキ
 メンシェヴィキ: (少数派の意)ロシア社会民主労働党の右派。プレハーノフ・マルトフ(L. Martov 1873−923)らが指導。1903年ボリシェヴィキと決裂。社会主義への道は議会制民主主義実現を経ると主張。二月革命後、臨時政府の指導勢力となったが、十月革命で打倒された⇔ボリシェヴィキ
 赤軍: ソ連の正規軍。正しくは労農赤軍。1918年、赤衛軍に代わって組織された正規の軍隊。46年ソビエト軍と改称。⇔白衛軍
 白衛軍: 1917年のロシア革命およびその後の内乱に、赤軍に対抗して政権を奮回しようとした帝政派などにより組織された反革命軍。白軍。

*全頁、アート紙で印字がきれい。字も小さくないので助かる。ミスプリもめったにない。

*相田 弥生さんの翻訳がある。『流血の大地』(1,800円)



* tralegis: 8. 16. 2008. * retralegis: -. -. 2008.



各章の内容 

第1章:ジャッカルとの異名をとるスミルノフ大尉が率いる騎馬集団が、早朝の町を北方山地へ向かって進軍する。その後から技術大隊を率いてポデンコ大佐がしたがう。彼は、平時は、父親から受け継いだソーセージ工場の経営者で、「どうせよというんだ、しょうがないじゃないか('kion fari?') 」が口癖。中国人墓地の脇を通った時、犬がキャンキャン吠え立てるので、スミルノフは拳銃で犬を撃つ。パン売りの中国人、リオ・フ・ペンが犬を手当てしていると、ポデンコが通りがかる。ポデンコはペトロフ中尉に犬を手当てするように命ずる。初め冗談だと思ったペトロフが追従笑いを浮かべていると、命令が聞き届けられなかったのでポデンコが「お前は歯医者じゃなかったのか。犬の足を治すぐらい簡単ではないか」と怒り出す。慌てはペトロフはリオ・フ・ペンのところへ戻り、犬を手当てし、プーシキンスカヤ街に住む自分の従卒(ミホック:第4章に登場。「今日の単語」にも登場している(2008年8-10月))に犬を預けるようにと言う。(全9頁)

第2章:片腕にパンの籠を抱え、もう一方の腕に怪我をした犬を抱いて、リオ・フ・ペンは捕虜収容所のバラックの前へとやってくる。売れそうもないパンを哨兵の隙を突いて柵の向こう側へ放り投げる。犬をパン籠の中に入れ、町のほうへ歩いてゆくと到着したばかりの捕虜たちに出会う。捕虜のシュテファーノとペトロが「犬の肉はうまいかい?」などとリオ・フ・ペンをからかう。オーストリア人を先祖の代から嫌いだというペトロに、オーストリア人捕虜のロブマイヤーが煙草を持ってないかとたずねて来る。ポケットのパイプを目にたのだ。いとも簡単に「この煙草はうまいです」とマッチまで提供する。オーストリア人がお礼を言って去ってゆくと、早速、「オーストリア人嫌いだったのではないか」とシュテファーノがペトロにからむ。「これがポリティックというものさ、お前には分からんだろうが。それにあのオーストリアのおじいさんは、チロルの山向こうに住む大家族があるんだ。美しい娘もいるんだ。オーストリア人ってのが残念だが」(全6頁)

第3章:朝。赤軍の捕虜収容所のバラックの扉が開いて、井戸へ水汲みのために男女の捕虜がゾロゾロと出てくる。高い塔の上には監視兵がおり、収容所の門のところには機関銃の後ろに士官が二人控えている。囚人の一人の大男、チューリンが柵の近くに落ちているパンを見つける。こっそり腹ばいになり取りに行こうとするがすぐに見つかってしまう。「どうして柵に近づこうなんて考えるんだ、殺されてしまうよ」と仲間の男(この章では名前は明かされないが、後の章でこれがバーディー(バギィーさんの分身)であることが分かる)。「逃げるつもりはないよ。あそこを見ろ。パンがあるだろう。俺は腹が減っているんだ。夕方まで、誰も見つけていなければ...」「俺が取ってくるよ。でも、半分は俺にくれよ」と言って、その男はさっさと士官のところへ歩いて行く。チューリンは殺されてしまわないかと気が気でないが、士官の一人、ストリチコフは「昨日、小屋で赤ちゃんが生まれて、母親がミルクがなくて困っている。あのパンを取りに行かせてくれ」という捕虜の話に同情を示す...…ストリチコフとのやり取りからバーディーの履歴が分かる。すなわち、ハンガリー出の戦争捕虜、元俳優、志願兵一年目で伍長だった、と。(全6頁)

第4章:士官たちの食堂で今朝の遠征の勝利を祝う酒宴が開かれている。中心にいるのはコザックの長であるカルムコフ。テーブルの上に連隊のためにと数万ルーブルの紙幣が放り出してある。ポデンコ大佐はその出所が気になって聞き出そうとするが、機嫌を損ねると自分の身が危ない。どうやらスウェーデンの赤十字から派遣された人たちをスパイと決めつけ、殺して奪ったものの一部のよう。何か面白い事はないかと酔ったカルムコフの目にとまったのは、戸口に控えていた戦争捕虜の従卒。近くへ呼びつけると、その従卒はロシア語が分からないので、追従笑いを浮かべるのだが、それを侮辱と考えたカルムコフにびんたを食らう。おまけに、従卒が胸につけている星のバッジをボリシェヴィキの目印だとし、すぐにも銃殺にしかねない。自分の従卒を失いそうになって、ペトロフが助けに乗り出す。ミホックが緑星章をつけていることを初めて知ったペトロフ。「ああ、これは英国語のロンドン方言を話す連中のつけてる星のバッチですよ。ヘル・ミホックは私に英国語を教えてくれていて、全く信頼できる人物です。それにこの星は赤でなくて緑ですよ」...(全6頁)


第5章:司令部から明日の行動予定表を手にしてストリチコフがポデンコたちがいる部屋へ来る。明日、彼も連隊と一緒に捕虜たちを南の兵営へ移すことになっている、と言う。アメリカ軍の命令で市民や老人、女性、子どもたちを区別し規律も緩めるようにするのだと。カルムコフがなぜアメリカ軍が介入してくるのだと怒り出す。今すぐ移そう、俺の部下のコザック兵たちの気晴らしにもなる、捕虜を甘やかしてはいけない、などとも。ストリチコフが胸の勲章を示しながら「私がこれを受けてまでして戦う相手は、武装していない女、子どもではない」と、敢然とカルムコフにたてをつく...彼が去った後、ペトロフが、ストリチコフは仲間からも尊敬されている勇敢な兵で、まだ結婚したばかり、新婚一ヶ月もたたないうちに戦場に呼び戻されたのだ、と弁護する。(全5頁)


   第6章:夜の点呼が終わって、捕虜たちがベッドに入る時間。大男のチューリンは自分のパンを掠め取られた悔しさと空腹で、バーディーがパンとミルクを持って赤ちゃんを産んだばかりの母親のところへ届けに行くのを見つけ、「それは俺のだ。分け前をよこせ」と詰め寄る。バーディーは「パンの半分はお前の枕の下に置いてある」と返事する。確かに、枕の下にパンと焼き魚が置いてある。チューリンが食べていると、お腹をすかした男の子(次の章で、この子がユーロチカであり、母親はリューシャであることが分かる)がじっと見ているので、それが気になってのどに魚の骨をつかえさせてしまい、腹立ち紛れにその子を殴りつける。周りの囚人たちから非難の目で見られるが、誰も大男には抗議できない。気がとがめ始めたチューリンは小さなビー玉を持っていたはずだ、それをあの子やろうと思うが、どこへやったか探しても出てこない。きっと、パンを置いたときに盗んだのだろうとバーディーが寝ているところへやって来る。「そんなものは知らない。子どもにならこの小さな凸面鏡がいいだろう」と、何でも小さくなってしまう鏡をくれる。チューリンはそれを持って親子が寝ているベッドへお詫びに行く...(全8頁)大男の無骨な優しさに心が洗われる。集中一、二のいい話だ。


   第7章:捕虜たちが寝静まったバラックにコザックの軍曹が入ってくる。部屋の中央に立ち「やい、悪党どもめ!起きて整列しろ!急げ」と怒鳴る。捕虜の中にびっくりして彼を見つめる女囚がいる。「神様!あれはコリューシャ・カラセフにちがいないわ」そして、怖がる息子に向かって言う。「ユーロチカ、もう何も怖がる事はないわ」寒さで震えながら捕虜たちはバラックの外へ男女別々に二列に並ばされる。酔っ払ったコザックの隊長、カルムコフがその中央へ馬で乗り入れる。カラセフ軍曹が直立不動の姿勢で敬礼し、軍楽隊に合図を送る。「私の優しいところを見せてやろう。今からダンス大会だ。よく聞け、悪党ども!裸になれ!一、二、三、急げ!」鞭の音が鳴り、悲鳴が上がる。「すぐ裸になれ!野郎ども鞭をケチるな!」あの軍曹の命令なら裸になるという女囚がいると同僚が言うので、コリューシャ・カラセフがそちらへ行くと、「コリューシャ・ペトロヴィッチ!恥ずかしくないの、コーラ!私に裸になれと命令するの?」とその女囚。「どうしてお前はここにいるんだ、どうしてこんな連中と一緒にいるんだ」茫然自失の夫の目の前でルーシャは自分の服を引きちぎる「ほら、コリューシャ、もう一度見て楽しむといいわ!ハハハ!あなたの息子のユーロチカも見てやって、ハハハ!」...この残酷なカルムコフの催しは、思いがけないチューリンの脱走劇によって終わる。1918年10月末の夜の事である。(全10頁)


  


 (2008. 9. 6. 最初の書き込み。)

 

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