*複雑な構文の文章は全くなく、エスペラントの初学者に最適の読み物。若い人だったら読後の余韻もひとしおと思う。「世界語自習課本」(1)、(2)の李 (Laŭlum) さんの訳で、エスペラント文はとても読みやすい。表紙絵の他に、二枚の白黒の挿絵があるが、二枚目の、本作品の最後の頁(96頁)にある挿絵を見れば、結末の予測も可能だろう。
*巴金さん(1904 - 2005) は、ネットの検索では、四川省成都の生まれとある。いま、2008年5月、2週間前に大地震があったばかり。生誕地に記念館でもあるとするなら地震の被害が気にかかる。
*お話の中に出てくる風物も興味を引く。特に、動植物。banjano(バンヤン)、liĉi-arbo(レイシ)、longan-arbo(竜眼)、bubalo(水牛)、kanafloro(カンナ)など。「学校の裏には小川が流れていて、その岸に竜眼の木が植わっていた」、「白っぽい果肉、茶色の種、薄緑色の皮」、「彼女は竜眼の実が好きだったし、私も好きだ」、「私の歯はもうあの竜眼の皮をむくことは出来ない」などと。
*恋人たちが、ある夜、舟遊びに出て天の川を見上げ語り合う場面がある。注で織姫伝説が説明されているが、我々、日本人にも参考になる。天の川はエスペラントで三通りに書かれている。Ĉiela Rivero(天の川)、Arĝenta Rivero(銀河)、 Laktovojo(英国語の Milky Way のエスペラント訳)。そして、牽牛は Bovpaŝtisto、織姫は Teksanta Knabino である。
*本書にある巴金さんの紹介の箇所に、「彼はエスペランティストとして、Julio Baghy さんの短編小説 'Printempo en la Aŭtuno' を中国の読者に読むことを薦めるとともに、翻訳し、自らも Baghy さんのタイトルをひっくり返して自分の小説のタイトルにした」とある。Baghy 作品を入手し読み比べてみたいと思う。
*作品中で明治・大正の文人たちが好んだ(?)シュトルムの「インメンゼー(みずうみ)」の中の詩が引用される。巴金さんは日本に1934年から1935年にかけて滞在している。
*巴金さんによる「まえがき」が冒頭に三つある。「まえがき(1932年5月)」、「春の中の秋について(1978年7月)」、「まえがき エスペラント版の出版のために(1980年3月)」。三つ目の「まえがき」にはこんな事が書かれている。
「...この悲しい物語で、私はゾラの有名な言葉『私は告発する!(Mi akuzas!: J'accuse!)』を引いて若い人たちに訴えた。(この物語の)主人公だった私の友人は後に有名な作家になったが、あの「四人組」による暴政の犠牲になった...」
「20年代から30年代にかけて、私はエスペラント・オリジナルの作品の翻訳やエスペラントを介しての翻訳をした。Baghyさん の 'Printempo en la Aŭtuno' もそのうちの一つである。1932年に書いた私の短編を 'Aŭtuno en la Printempo' という題にしようとのアイデアは、この Baghy さんの作品を翻訳した後に私の頭に浮かんだ...」
「私はエスペラントを愛している。私は18歳のときにエスペラントを学び始め、20年代にはもっとも熱心にそれを勉強した。その後、おおよそ50年間、私はいくつかの理由でエスペラント運動から離れたが、いま、エスペラント版のためにこの文章を書いていて、私はまだエスペラントが放つ大きな魔力を感じることが出来る。折りにふれ、私は私の晩年を民族間の友情のために捧げるつもりだと話してきたが、この中にはエスペラント運動も含まれている。 巴金 3月24日、1980年」
*一番目と二番目の「まえがき」では、この作品を書くきっかけとなった出来事が語られる。一番目では作品を書き終えた時期の若々しい情熱を込めて。二番目では、スウェーデンの友人らによるインタヴューを終え、彼らから思いがけなく本作品のエスペラント訳をプレゼントされた後、自宅で自作を取り出して夜遅くまでかかって読み返し、本作品のきっかけになった1932年の春の出来事(友人たちと地方の金持ちの家に住むまだ若い狂女を訪ねたこと、何か力になれないかと半時間ほど話をしたこと、など)が淡々と語られる。二番目の方では、さらに、主人公のモデルになった友人が駆け落ちし、作家として名を成し、しかし、文化大革命の犠牲になるまでのことも。いずれも、とても感動的な読み物になっている。
* retralegis: 5. 24. 2008.
大小合わせて26の章からなる。
故郷に住む私の妹が、兄が死んだと知らせる電報を打ってきた。
私が知る限り、兄はもうじき結婚するところで、病気でもない。だから、どうして死んだか私には分からなかった。
「これは夢なんだろうか? 人はこんなにも簡単に死ぬことが出来るものなのだろうか? 何より、自分がこれから結婚するというときに?」私は信じられなかった...
主な登場人物は主人公の Lin 、その恋人の Zheng Peirong (作品中では愛称で Rong と呼ばれる)、そして、主人公の友人で新聞の編集者の Xu 。
(2008. 5. 25. 最初の書き込み。)